己斐の家

日本
© Toshiyuki Yano
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建築家
小松隼人建築設計事務所
場所
日本
2021

【熱環境の流れをつくる開口】
広島市内の市街地に建つ住宅の改修計画。
敷地周辺は道路幅の狭さなどを理由に空き家が目立ち始めていたが、一区画にゆとりがあり豊かな環境が広がる。この地で生まれ育った建主は、築50年程の住宅を譲り受け、改修しながら住み継ぐことを決断された。

既存の住宅は設備や間取りの改修をしてきた経緯、そして建物自体の健全性が読み取れたが、多くの居室で区画された間取りは3人で暮らす住居としてはフィットしていない。一方で2階はすべての方位に窓が配置されているため、採光が十分に取れて風通しがよいことが特徴であった。

要望を整理していくと、最小限の操作で住環境が良くなる方法を選ぶ必要がある。既存建物から現状の風の滞りを読み取ると、既存2階の東南方向の2室をどちらかではなく、互いをまたいで床を大きく開口し、そこを熱環境の重心とすることで、光の流れ、風の流れを上下階に紡ぐことができた。開口の位置と寸法は2階の窓が開閉できるように回廊をつくること、採光が1階の北側居室まで届くことを考慮して決定している。開口の周りにできた余白は書庫も兼用した回廊と家族のセカンドリビングとなり、1階のリビングと垂直の繋がりもつくり出した。
1階には南北を貫通する土間スペースを設けて風の通り道をつくり、冬季は南からの採光を受け止めて蓄熱させる。断熱は既存の断熱材をすべて現行の基準に合わせ、さらには土間との居室の境界に内窓を設けることで断熱性を高めた。構造は耐震改修を前提とした計算を行い、化粧として見せる梁と、既存の梁下に新しく梁を添わせて面材で一体化させた梁を、適所に組み合わせながら補強している。
再建築には多くの課題がある市街地は、その理由で未来から取り残されていく。しかし、ライフスタイルが多様化した現在であれば、車が必要ない暮らし方や、仕事場や店舗として活用したりと、様々な既存建築物のストック活用が考えられる。若い世代の積極的なストック活用がこの市街地の空洞化をなくす一助となることを期待したい。

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