小さな蔵

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2002




写真: 新建築社

和歌山市の中心部から南東へ約4km、中央に公道を挟む南北の敷地にリネン工場とその経営者の住まいが混在している。私が計画を担当した範囲は、すでに新しく完成していた住まいを取り囲む外構計画と、住まいの東側に必要とされていながらまだ方針が決定していなかった蔵のデザインである。小さな蔵(収蔵庫)はその全体計画の一部分である。小さな蔵の用地は、工場を含め敷地全体の中央にあり、既存の母屋と工場倉庫に挟まれた台形の土地形状をもち、北西を公道に接している。

配置計画にあたり、玄関・浴室・台所といった性質の異なる部屋が並ぶ壁面に接して小さな蔵が建つことを考慮し、母屋と適度な距離を設け、木製ルーバーを通して柔らかい光が注ぐ明るい半外部空間をしつらえた。さらに硝子スクリーンで分割し、それぞれの機能に適った場所を確保した。小さな蔵には、土地の制約条件の中で最大の広さを確保しつつ、母家の玄関への導入路を豊かに演出するかたちが求められた。その結果、建物はアイロンのコテあるいはボートに似た平面の形をもつことになった。

断面の形状を模索するうちに、平面の形から自然に導かれた船底型の屋根がこの建物に最適であると判断した。この屋根は鉄骨の束に支えられ、壁からせり上がり浮いたように見える。

構造用木材は壁、屋根は共に基本寸法が55x170mmの断面の大きさを持つ部材で構成され、一部屋根の曲面部分に軒先を同寸法とする扇型の部材を使用し、合計2種類の部材のみで構築されている。外壁は光沢の無い墨色の亜鉛合金板で覆われ、その姿は工場建築あるいは昔ながらの蔵を連想させるであろう。

当初、「もの」を収納する以外に特定の目的を与えられていなかった建物ではあるが、目に見えるものを越え、住まい手の記憶を集積する場所として、また経営者であるクライアントの多忙な生活の中で、心休まる隠れ家として、さまざまに活用されることを想定して計画されている。この小さな建物が、母屋の顔になり、工場を含めた敷地全体の要として、この家の繁栄を牽引する小舟のようにあり続けることを願っている。



所在地: 和歌山県和歌山市

主要用途: 収蔵庫(書斎、倉庫)増築

規模: 地上1階

構造: 木造

敷地面積: 1'770 ㎡

建築面積: 38.0 ㎡(増築部分)

延床面積: 23.5 ㎡(増築部分)

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