写真 © 矢野紀行
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32.4°House

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場所
神奈川, 日本
2017

整形な敷地に対して、ほぼいっぱいとなる正方形平面をはじめに設定した。
その内側に、ひとまわり小さいもう一つの正方形平面を想定し、中心の柱を軸にして時計回りに32.4度回転させ、外側の正方形平面との間に直角三角形の隙間を4つ作った。

外側と内側の正方形平面、および4つの直角三角形によって建物全体を構成している。

直角三角形の隙間は、玄関ポーチの吹き抜けや各部屋のバルコニーになると同時に、床面積や建築面積を許容範囲に収めるための、いわば引き算の空間にもなっている。外側の正方形平面をすべてそのまま建物として立ち上げると、予算から想定した床面積や法定の建蔽率をオーバーしてしまうからだ。

内側の正方形平面の壁に対してはできるだけ大きな窓を設け、外側の正方形平面の壁には控えめな開口部を設けている。そうすると、室内から窓越しに見えるのは隣家ではなく自宅の壁(=外側の正方形平面の壁)になり、窓に隣家からの視線を遮るカーテンがなくても過ごせるようになる。カーテンがないため、窓越しに見える自宅の壁まで室内からの視線が伸びて、床面積以上の広がりを感じることができる。壁は4つの直角三角形を経由して降りてくる光が柔らかく反射するようにツヤを抑えた白い塗装で仕上げ、感覚的な広がりを加えた。

周辺には同じような整形の敷地が続き、新旧の住宅が、やはり敷地に対してほぼいっぱいに立ち並んでいる。前面道路は私道であり、近隣の敷地所有者が持ち合う仕組みになっていて、幅は4m前後で広くはない。建物も人間関係もかなり近づき合った印象を与えるこの環境に、何十年も住み続けている世帯もあれば、近年引っ越してきた世帯もあり、住人の世代も幅広く、様々な生活が展開している。

今回の計画では、他所からやってきて、ここで新たな生活を始める夫婦と小さな子供たちの4人家族のために、周辺環境との距離感を建物によっていったん調節している。プライバシーを守りながら、静かで広がりのある室内を確保できればと考えた。

午後になると、前面の私道を下校の小学生たちが賑やかに通り過ぎ、どこからともなくピアノ練習の音が聞こえ、スーパーで買い物を済ませた大人が立ち話をする、そんな穏やかな風景が広がる。時間が経つにつれ、近づき合った周辺環境と4人家族の関係が、少しずつ馴染みながら自然に形づくられてゆくことを期待した。

-中佐昭夫-

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