東金市嶺南幼稚園
千葉県東金市, Japan
- Architects
- 空間研究所/篠原聡子
- Localització
- 千葉県東金市, Japan
- Any
- 1993
子供からの問いかけにハッとすることがある。当然わかっているはずのことが、説明しようとすると言葉にならない。5歳の子供とまともに話をするのは結構難しい。彼らの質問は素朴で、かつ本質的である。まず、平易で直截な共通の言葉を見つけなくてはならない。
幼稚園を設計するにも、この共通の言葉を見つけなくては始まらない。そして私たちは、銀色の波間に浮かんだ鯨の背中から話を始めることにした。
鯨は、子供たちが最初に出会う物語の主役たちのひとりである。と同時に、海のイメージは、九十九里の海岸線の後退によってこの敷地が陸になったという遠い記憶とつながっている。今でも、海岸線と平行に並ぶ幾筋かの村落がその痕跡をとどめている。私が小学生だった頃、先生が社会科の授業で繰り返しこの話をしていたことを思い出す。この敷地には以前古い木造の建物があり、幼稚園と小学校(かつて私も通っていた)に使われていた。小学校は今は統廃合によってなくなってしまったけれど、辺りの風景はあの頃とさして変わらず、今ものどかな田園風景の中にある。
幼稚園の保育室棟と管理棟を形成しているウェーブラインは、時に家並みのように見え、遊戯室棟となっているホェールシェイプと周辺の田園風景との仲立ちの役割を果たしている。
保育室は透明な附室を介して、また遊戯室は屏風状の可動間仕切りによって吹放しの廊下に接し、それらはゆるやかに仕切られ、また結ばれている。保育空間の上部も透ける壁によってウェーブラインの連続した空間の流れが意識されるようになっている。
保育室の架構はトラスの下弦を1本の鉄筋で引っ張った単純な見えがかりとなっている。反対に、遊戯室は上弦材に木、下弦材に鋼管、斜材に丸鋼を細かくつないだ複合梁がアールの天井面を構成し、細やかな見えがかりをつくっている。子供たちの主たる生活空間であるこのふたつの部屋は、意図的に雰囲気の違うものとなっている。これら異質な要素をゆるやかに結ぶことで、子供たちの想像力を刺激しつつ、彼らの縦横無尽な行動を十分に許容し得る構成を取っている。その中から、子供は私たちの予期せぬ遊びを次々と発見し、私たちを驚かせてくれるだろう。
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