© Kai Nakamura

かつて海岸線がはるか内陸にあった頃、海からあたかも島のようにみえたことからその名が付いたともいわれている「湯島」。じっさい今でも周りには急坂が残っており、界隈が起伏に飛んだ地形であることを物語っている。ドラスティックな物理的空間体験もさることながら、時間の織りなす襞のなかに迷い込みそうになるダイナミズムもまた、この土地の持つ魅力のひとつである。江戸時代には武家・町人屋敷がひしめき合い、バラエティに富んだ人々が暮らしていた湯島には、現在でも事務所や住宅、商店などがシームレスに混ざり合っている。そんな街並みのなかにあって、現代の多様な暮らし方をサポートする集合住宅を目指した。

全28戸ある住戸は計14種類のプランから構成されており、住まい手の構成や価値観に応じて自由に選び取れるバリエーションを取り揃えている。グランドレベルに面する住戸はすべてメゾネットタイプとなっており、街と連続した上階とプライバシー性の高い下階とに分かれるため、SOHOや小商い(こあきない)をおこなうのにも適した間取りとなっている。また、住戸によっては専用のルーフバルコニーが付いていたり、ほとんどのプランにはワークスペース兼用のクローゼットが備えられていたりするなど、パンデミックを経ての学びから生まれたさまざまな設えが散りばめられている。

幅員6mに満たない前面道路に対し、容積率いっぱいに層を重ねてしまうと通りの雰囲気をよりいっそう鬱蒼とさせてしまう。ここでは不整形な敷地形状に合わせて高層棟と低層棟とにボリュームを二分し、最大容積を担保しつつ街からみえる空の広がりを維持するよう心がけた。こうして生まれた対比的な造形をそれぞれ「櫓(やぐら)」と「ハナレ」に見立て、両者を連続させながらも構造上は縁を切っている。高層棟の櫓は上階の手摺やカウンターを兼ねる逆梁を架け、空に向かう視線を通す開放的な耐震壁付ラーメン構造。一方、低層棟のハナレは室内外に柱型を出現させない壁式構造を採用し、一層につき一住戸とすることで床と壁によって仕切られた独立性の高い空間を獲得した。

外装はコンクリート打放しをベースとしつつ、みる角度によって表情を変える仕上げのパターンで構成されている。また、外壁面をセットバックさせて設けた専有庭のスクリーンには日本の伝統色でつくられたレンガが用いられ、神田明神と湯島天神とを結ぶ場所に位置する建物として、寺社仏閣の多い周辺地域のコンテクストを引き継いでいる。

Photo © Kai Nakamura
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湯島の集合住宅

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Location
東京都文京区, Japan
Year
2023

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